何故、今渋沢栄一なのか「渋沢栄一物語」
幕末の混乱が終わり、明治維新により新たな時代を迎えた日本。
この国をどのような国家にしていくのか…。
この難題に、合本主義をもって「経済と道徳の融合」という大いなるイノベーションで答えを出した渋沢栄一。栄一が築いた500を超える企業は日本経済の礎となり、後に資本主義の父と呼ばれた。
時は移り、グローバリゼーションという新たな黒船が襲い掛かろうとしている今日の日本経済。
この荒波にどう立ち向かっていけばいいのか…。
その答えを見出すべく、渋沢栄一の足跡を振り返る。

渋沢栄一の生い立ち

渋沢栄一

今日の日本経済の礎を築き、“日本の資本主義の父”と称される渋沢栄一は、天保11(1840)年、武蔵国榛沢郡(現在の埼玉県深谷市)の血洗島の農家を営む、父・渋沢市郎右衛門と母・エイの間に生まれました。
渋沢家は、藍玉の製造販売や養蚕、米、麦、野菜などの生産を手がける裕福な農家でした。栄一は幼い頃から家業を手伝う一方、父市郎右衛門から学問の手ほどきを受け、従兄弟の漢学者、尾高惇忠から本格的に「論語」などを学びました。
尾高惇忠から「尊王攘夷」思想の影響を受けた栄一は、22歳の頃、徳川幕府体制に疑問を抱き、惇忠や惇忠の弟の長七郎、いとこの渋沢喜作らとともに高崎城乗っ取りの計画を立てましたが中止し、京都へ向かいます。
その後、一橋(徳川)慶喜に仕えることになった栄一は、実力をいかんなく発揮し27歳の時、慶喜の弟である徳川昭武に随行し、パリ万国博覧会を見学。欧州諸国の実情を間近かに見聞きし、合本主義に出合います。
明治維新となって欧州から帰国すると、日本で最初の合本(株式)組織「商法会所」を静岡に設立。その後、明治政府に招かれ大蔵省の一員として新しい国づくりに深く関わります。
明治6(1873)年に大蔵省を辞めた後、栄一は一民間経済人として資本を集め、株式会社組織による企業の創設・育成に力を入れました。そのスタートは「第一国立銀行」の総監役(後に頭取)に始まり、その後約500もの企業の設立に関わったといわれています。
渋沢栄一は、幼い頃から強い影響を受けた「論語」から学んだことを事業に取り入れ、「事業」と「道徳」という一見かけ離れた二つのテーマを融合させる「道徳経済合一説」を説いています。

家系図

渋沢栄一家系図

渋沢栄一が関わった企業

数々のリーディングカンパニー。その礎を築いたのが近代殖産興業の父、渋沢栄一です。

富岡製糸場も渋沢栄一が深く関わっています。

渋沢栄一は生涯に600以上もの企業や組織、学校などの設立に関わったといわれています。
日本最初の銀行となる第一国立銀行(現みずほ銀行)を皮切りに数多くの銀行設立を指導し、東京商工会議所や東京証券取引所の前身も設立しています。他にも数々の優秀な科学者を生み出した理化学研究所や東京ガス、東京海上火災保険、日本郵船、帝国ホテル、王子製紙、日本製紙、キリンビール、サッポロビール、太平洋セメント、帝国劇場など、それらのほとんどが今でも日本経済を支えるリーディングカンパニーです。
また、このたび世界遺産に登録された富岡製糸場も、渋沢栄一が殖産興業を進める明治政府からの任を受け、工場の立案から深く関わっています。
※下記は渋沢栄一が関わった企業や学校などのほんの一部です。

理化学研究所、富岡製糸場、東京瓦斯、東京海上火災保険、王子製紙、田園都市(東急電鉄)、秩父セメント(太平洋セメント)、帝国ホテル、秩父鉄道、京阪電気鉄道、東京証券取引所、キリンビール、サッポロビール、東洋紡績、商法講習所(現一橋大学)、大倉商業学校(現東京経済大学)、二松学舎(二松学舎大学)、学校法人国士舘、同志社大学、女子教育奨励会、日本女子大学校、東京女学館、東京慈恵会、日本赤十字社、癩病予防協会、財団法人聖路加国際病院、財団法人滝乃川学園、YMCA環太平洋連絡会議など。

渋沢栄一関連書籍

渋沢百訓 論語・人生・経営
渋沢栄一 著
(角川ソフィア文庫)
渋沢栄一が、論語の精神に基づくビジネスマンの処し方をテーマごとにまとめた談話集。『論語と算盤』よりも内容がわかりやすく、ビジネスに対する渋沢の才気が横溢した1冊。原著『青淵百話』から57話を精選。
渋沢栄一 100の訓言
渋沢健 著
(日経ビジネス人文庫)
「満足は衰退の第一歩」「『他人をも利すること』を考えよ」――。企業500社を興した実業家・渋沢栄一。ドラッカーも影響された「日本資本主義の父」が残した黄金の知恵を、5代目子孫がいま鮮やかに蘇らせる。
渋沢栄一 日本を創った実業人
東京商工会議所 編
(講談社+α文庫)
明治初頭の黎明期における、渋沢栄一をはじめとする実業人たちの活躍を紹介。東京商工会議所を舞台に、江戸時代の古き慣習を打ち破り、近代日本国家の創造のために実業界の威信と誇りをかけた先人の活動を鳥瞰し、その歴史的意義、心意気を振り返る。
渋沢栄一 人生百訓
渡部 昇一 著
(致知出版社)
渋沢が著した処世訓『青淵百話』をベースに、著者が現代の事情を交えながら、噛み砕いた解説を加える。『論語』を基盤に置きつつ、いかに生きるべきかを、100項目に分けて綴った一冊。
論語と算盤
渋沢栄一 著
(国書刊行会)
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現代語訳 論語と算盤
渋沢栄一 著
(ちくま新書)
日本実業界の父が、生涯を通じて貫いた経営哲学とはなにか。「利潤と道徳を調和させる」という、経済人がなすべき道を示した『論語と算盤』は、すべての日本人が帰るべき原点である。明治期に資本主義の本質を見抜き、約四百七十社もの会社設立を成功させた彼の言葉は、指針の失われた現代にこそ響く。経営、労働、人材育成の核心をつく経営哲学は色あせず、未来を生きる知恵に満ちている。

その他の関連書籍

人間学のすすめ「恕」

人間学のすすめ「恕(じょ)」~安岡正篤・孔子から学んだこと~
下村 澄 著/㈱三冬社
渋沢栄一のバイブル「論語」に気軽に触れられる一冊です。
≪目次≫
第1章 六中観/第2章 人生の基本/第3章 本物の思考/第4章 人づきあい/
第5章 理想の人物/第6章 子どもとは未来


渋沢栄一物語
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